朗読のページ夢遊病者の死

江戸川乱歩

江戸川乱歩作品の朗読「覆面の舞踏者」彦太郎が勤め先の木綿問屋をしくじって、父(てて)親の所へ帰って来てからもう三ヶ月にもなった。旧藩主M伯爵邸の小使みたいなことを勤めてかつかつ其日を送っている、五十を越した父親の厄介になっているのは、彼にしても決して快いことではなかった。どうかして勤め口を見つけ様と、人にも頼み自分でも奔走しているのだけれど、折柄の不景気で、学歴もなく、手にこれという職があるでもない彼の様な男を、傭って呉くれる店はなかった。尤も住み込みなればという口が一軒、あるにはあったのだけれど、それは彼の方から断った。というのは、彼にはどうしても再び住み込みの勤めが出来ない訳があったからである。
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江戸川乱歩作品の朗読「覆面の舞踏者」わたしはそのころ世田谷警察署の刑事でした。自殺したのは管内のS町に住む
 私がその不思議なクラブの存在を知ったのは、私の友人の井上次郎によってでありました。井上次郎という男は、世間にはそうした男が間々あるものですが、妙に、いろいろな暗黒面に通じていて、例えば、どこそこの女優なら、どこそこの家へ行けば話がつくとか、オブシーン・ピクチュアを見せる遊廓はどこそこにあるとか、東京に於おける第一流の賭場は、どこそこの外人街にあるとか、その外ほか、私達の好奇心を満足させるような、種々様々の知識を極めて豊富に持合せているのでした。その井上次郎が、ある日のこと、私の家へやって来て、さて改まって云うことには、
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江戸川乱歩作品の朗読「悪霊物語」小説家大江蘭堂は、人形師の仕事部屋のことを書く必要に迫られた。ブリタニカや、アメリカナや、大百科辞典をひいて見たが、そういう具体的なことはわからなかった。
 蘭堂は、いつも服をつくらせている銀座の洋服屋に電話をかけた。そして、表の店に飾ってあるマネキン人形は、どこから仕入れているのかとたずねた。
 マネキン問屋どんやの電話番号がわかったので、そこへ電話した。こちらは小説家の大江蘭堂だが、人形師の仕事部屋が見たい。なるべく奇怪な仕事部屋がいい。一つ変り者ものの人形師を教えてくれないかと云いうと、先方は電話口で、エヘヘヘヘヘと気味わるく笑った。
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宮沢賢治作品の朗読「銀河鉄道の夜」「一人二役」江戸川乱歩
人間、退屈すると、何を始めるか知れたものではないね。
 僕の知人にTという男があった。型の如く無職の遊民ゆうみんだ。大して金がある訳わけではないが、まず食うには困らない。ピアノと、蓄音器ちくおんきと、ダンスと、芝居と、活動写真と、そして遊里の巷ちまた、その辺をグルグル廻まわって暮している様な男だった

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宮沢賢治作品の朗読「銀河鉄道の夜」銀河鉄道の夜 九、ジョバンニの切符
「もうここらは白鳥区のおしまいです。ごらんなさい。あれが名高いアルビレオの観測所です。」
 窓の外の、まるで花火でいっぱいのような、あまの川のまん中に、黒い大きな建物が四棟ばかり立って、その一つの平屋根の上に、眼めもさめるような、青宝玉と黄玉の大きな二つのすきとおった球が、輪になってしずかにくるくるとまわっていました。

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宮沢賢治作品の朗読「銀河鉄道の夜」銀河鉄道の夜 八、鳥を捕とる人
「ここへかけてもようございますか。」
 がさがさした、けれども親切そうな、大人の声が、二人のうしろで聞えました。
 それは、茶いろの少しぼろぼろの外套がいとうを着て、白い巾きれでつつんだ荷物を、二つに分けて肩に掛かけた、赤髯あかひげのせなかのかがんだ人でした。

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宮沢賢治作品の朗読「月夜のけだもの」月夜のけだもの
 十日の月が西の煉瓦塀にかくれるまで、もう一時間しかありませんでした。
 その青じろい月の明りを浴びて、獅子は檻をりのなかをのそのそあるいて居をりましたが、ほかのけだものどもは、頭をまげて前あしにのせたり、横にごろっとねころんだりしづかに睡ってゐました。夜中まで檻の中をうろうろうろうろしてゐた狐さへ、をかしな顔をしてねむってゐるやうでした。
 わたくしは獅子の檻のところに戻って来て前のベンチにこしかけました。

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床屋宮沢賢治床屋
本郷区菊坂町
      ※
九時過ぎたので、床屋の弟子の微かな疲れと睡気がふっと青白く鏡にかゝり、
室は何だかがらんとしてゐる
「おれは小さい時分何でも馬のバリカンで刈られたことがあるな。」
「えゝ、ございませう。あのバリカンは今でも中国の方ではみな使って居ります。」
「床屋で?」
「さうです。」
「それははじて聞いたな。」
「大阪でも前は矢張りあれを使ひました。今でも普通のと半々位でせう。」
「さうかな。」
「お郷国はどちらで居らっしゃいますか。」
「岩手県だ。」
「はあ、やはり前はあいつを使ひましたんですか。」
「いゝや、床屋ぢゃ使はなかったよ。俺は大抵野原で頭を刈って貰ったのだ。」
「はあ、なるほど。あれは原理は普通のと変って居りませんがね。
一方の歯しか動かないので。」
「それはさうだらう。両方動いちゃだめだ。」
「えゝ、噛っちまひます。」

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ガドルフの百合ガドルフの百合
ハックニー馬のしっぽのような、巫戯た楊の並木と陶製の白い空との下を、みじめな旅のガドルフは、力いっぱい、朝からつづけて歩いて居りました。
 それにただ十六哩だという次の町が、まだ一向見えても来なければ、けはいもしませんでした。
(楊がまっ青に光ったり、ブリキの葉に変ったり、どこまで人をばかにするのだ。殊にその青いときは、まるで砒素をつかった下等の顔料のおもちゃじゃないか。)
 ガドルフはこんなことを考えながら、ぶりぶり憤って歩きました。
 それに俄かに雲が重くなったのです。

ガドルフの百合

山男の4月山男の4月
山男は、金いろの眼を皿のようにし、せなかをかがめて、にしね山のひのき林のなかを、兎をねらってあるいていました。
 ところが、兎はとれないで、山鳥がとれたのです。
 それは山鳥が、びっくりして飛びあがるとこへ、山男が両手をちぢめて、鉄砲だまのようにからだを投げつけたものですから、山鳥ははんぶん潰れてしまいました。
 山男は顔をまっ赤にし、大きな口をにやにやまげてよろこんで、そのぐったり首を垂れた山鳥を、ぶらぶら振りまわしながら森から出てきました。

山男の4月

氷河鼠の毛皮氷河鼠の毛皮

汽缶車はもうすっかり支度ができて暖そうな湯気を吐き、客車にはみな明るく電燈がともり、赤いカーテンもおろされて、プラットホームにまっすぐにならびました。
『ベーリング行、午後八時発車、ベーリング行。』一人の駅夫が高く叫びながら待合室に入って来ました。(10年前録音、音があまりよくありません)

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雪渡りゆきわたり

お日様がまっ白に燃えて百合の匂を撒きちらし又雪をぎらぎら照らしました。
 木なんかみんなザラメを掛けたように霜でぴかぴかしています。

狐の紺三郎:松田 真一
四郎:須藤 みほ     かんこ:新保 智子 

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銀河鉄道の夜銀河鉄道の夜(前半)
するとどこかで、ふしぎな声が、銀河ステーション、銀河ステーションと云う声がしたと思うといきなり眼の前が、ぱっと明るくなって、まるで億万の蛍烏賊の火を一ぺんに化石させて、そら中に沈めたという工合、またダイアモンド会社で、ねだんがやすくならないために、わざと穫れないふりをして、かくして置いた金剛石を、誰かがいきなりひっくりかえして、ばら撒いたという風に、眼の前がさあっと明るくなって、ジョバンニは、思わず何べんも眼を擦ってしまいました。

ジョバンニ:萩 柚月  カムパネルラ:峰松 希匡
母 先生:中神 亜紀  ザネリ:河相 陽子
出演 協力:GoofTroop

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銀河鉄道の夜

いちょうの実

宮沢賢治

そらのてっぺんなんかつめたくてつめたくてまるでカチカチのやきをかけた鋼はがねです。
 そして星ほしがいっぱいです。けれども東ひがしの空そらはもうやさしいききょうの花はなびらのようにあやしい底光そこびかりをはじめました。
 その明あけ方がたの空そらの下した、ひるの鳥とりでもゆかない高たかいところをするどい霜しものかけらが風かぜに流ながされてサラサラサラサラ南みなみのほうへとんでゆきました。
 じつにそのかすかな音おとが丘おかの上うえの一本ぽんいちょうの木きに聞きこえるくらいすみきった明あけ方がたです。

いちょうの実
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