朗読のページ床屋

夢の世界へ


宮沢賢治作品の朗読「銀河鉄道の夜」氷河鼠の毛皮
このおはなしは、ずゐぶん北の方の寒いところからきれぎれに風に吹きとばされて来たのです。氷がひとでや海月やさまざまのお菓子の形をしてゐる位寒い北の方から飛ばされてやつて来たのです。
 十二月の二十六日の夜八時ベーリング行の列車に乗つてイーハトヴをつた人たちが、どんなにあつたかきつとどなたも知りたいでせう。これはそのおはなしです。

氷河鼠の毛皮

宮沢賢治作品の朗読「銀河鉄道の夜」シグナルとシグナレス
 軽便鉄道の東からの一番列車が少しあわてたように、こう歌いながらやって来てとまりました。機関車の下からは、力のないげがげ出して行き、ほそ長いおかしな形の煙突からは青いけむりが、ほんの少うし立ちました。

シグナルとシグナレスLinkIcon

宮沢賢治作品の朗読「銀河鉄道の夜」銀河鉄道の夜 九、ジョバンニの切符
「もうここらは白鳥区のおしまいです。ごらんなさい。あれが名高いアルビレオの観測所です。」
 窓の外の、まるで花火でいっぱいのような、あまの川のまん中に、黒い大きな建物が四棟ばかり立って、その一つの平屋根の上に、眼めもさめるような、青宝玉と黄玉の大きな二つのすきとおった球が、輪になってしずかにくるくるとまわっていました。

銀河鉄道の夜九ジョバンニの切符LinkIcon

宮沢賢治作品の朗読「銀河鉄道の夜」銀河鉄道の夜 八、鳥を捕とる人
「ここへかけてもようございますか。」
 がさがさした、けれども親切そうな、大人の声が、二人のうしろで聞えました。
 それは、茶いろの少しぼろぼろの外套がいとうを着て、白い巾きれでつつんだ荷物を、二つに分けて肩に掛かけた、赤髯あかひげのせなかのかがんだ人でした。

銀河鉄道の夜八鳥を捕る人LinkIcon

宮沢賢治作品の朗読「月夜のけだもの」月夜のけだもの
 十日の月が西の煉瓦塀にかくれるまで、もう一時間しかありませんでした。
 その青じろい月の明りを浴びて、獅子は檻をりのなかをのそのそあるいて居をりましたが、ほかのけだものどもは、頭をまげて前あしにのせたり、横にごろっとねころんだりしづかに睡ってゐました。夜中まで檻の中をうろうろうろうろしてゐた狐さへ、をかしな顔をしてねむってゐるやうでした。
 わたくしは獅子の檻のところに戻って来て前のベンチにこしかけました。

月夜のけだものLinkIcon

床屋宮沢賢治床屋
本郷区菊坂町
      ※
九時過ぎたので、床屋の弟子の微かな疲れと睡気がふっと青白く鏡にかゝり、
室は何だかがらんとしてゐる
「おれは小さい時分何でも馬のバリカンで刈られたことがあるな。」
「えゝ、ございませう。あのバリカンは今でも中国の方ではみな使って居ります。」
「床屋で?」
「さうです。」
「それははじて聞いたな。」
「大阪でも前は矢張りあれを使ひました。今でも普通のと半々位でせう。」
「さうかな。」
「お郷国はどちらで居らっしゃいますか。」
「岩手県だ。」
「はあ、やはり前はあいつを使ひましたんですか。」
「いゝや、床屋ぢゃ使はなかったよ。俺は大抵野原で頭を刈って貰ったのだ。」
「はあ、なるほど。あれは原理は普通のと変って居りませんがね。
一方の歯しか動かないので。」
「それはさうだらう。両方動いちゃだめだ。」
「えゝ、噛っちまひます。」

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ガドルフの百合ガドルフの百合
ハックニー馬のしっぽのような、巫戯た楊の並木と陶製の白い空との下を、みじめな旅のガドルフは、力いっぱい、朝からつづけて歩いて居りました。
 それにただ十六哩だという次の町が、まだ一向見えても来なければ、けはいもしませんでした。
(楊がまっ青に光ったり、ブリキの葉に変ったり、どこまで人をばかにするのだ。殊にその青いときは、まるで砒素をつかった下等の顔料のおもちゃじゃないか。)
 ガドルフはこんなことを考えながら、ぶりぶり憤って歩きました。
 それに俄かに雲が重くなったのです。

ガドルフの百合

山男の4月山男の4月
山男は、金いろの眼を皿のようにし、せなかをかがめて、にしね山のひのき林のなかを、兎をねらってあるいていました。
 ところが、兎はとれないで、山鳥がとれたのです。
 それは山鳥が、びっくりして飛びあがるとこへ、山男が両手をちぢめて、鉄砲だまのようにからだを投げつけたものですから、山鳥ははんぶん潰れてしまいました。
 山男は顔をまっ赤にし、大きな口をにやにやまげてよろこんで、そのぐったり首を垂れた山鳥を、ぶらぶら振りまわしながら森から出てきました。

山男の4月

氷河鼠の毛皮氷河鼠の毛皮

汽缶車はもうすっかり支度ができて暖そうな湯気を吐き、客車にはみな明るく電燈がともり、赤いカーテンもおろされて、プラットホームにまっすぐにならびました。
『ベーリング行、午後八時発車、ベーリング行。』一人の駅夫が高く叫びながら待合室に入って来ました。(10年前録音、音があまりよくありません)

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雪渡りゆきわたり

お日様がまっ白に燃えて百合の匂を撒きちらし又雪をぎらぎら照らしました。
 木なんかみんなザラメを掛けたように霜でぴかぴかしています。

狐の紺三郎:松田 真一
四郎:須藤 みほ     かんこ:新保 智子 

雪渡りLinkIcon

銀河鉄道の夜銀河鉄道の夜(前半)
するとどこかで、ふしぎな声が、銀河ステーション、銀河ステーションと云う声がしたと思うといきなり眼の前が、ぱっと明るくなって、まるで億万の蛍烏賊の火を一ぺんに化石させて、そら中に沈めたという工合、またダイアモンド会社で、ねだんがやすくならないために、わざと穫れないふりをして、かくして置いた金剛石を、誰かがいきなりひっくりかえして、ばら撒いたという風に、眼の前がさあっと明るくなって、ジョバンニは、思わず何べんも眼を擦ってしまいました。

ジョバンニ:萩 柚月  カムパネルラ:峰松 希匡
母 先生:中神 亜紀  ザネリ:河相 陽子
出演 協力:GoofTroop

銀河鉄道の夜(前半)LinkIcon

銀河鉄道の夜

いちょうの実

宮沢賢治

そらのてっぺんなんかつめたくてつめたくてまるでカチカチのやきをかけた鋼はがねです。
 そして星ほしがいっぱいです。けれども東ひがしの空そらはもうやさしいききょうの花はなびらのようにあやしい底光そこびかりをはじめました。
 その明あけ方がたの空そらの下した、ひるの鳥とりでもゆかない高たかいところをするどい霜しものかけらが風かぜに流ながされてサラサラサラサラ南みなみのほうへとんでゆきました。
 じつにそのかすかな音おとが丘おかの上うえの一本ぽんいちょうの木きに聞きこえるくらいすみきった明あけ方がたです。

いちょうの実
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月夜のでんしんばしら

宮沢賢治

ある晩、恭一はぞうりをはいて、すたすた鉄道線路の横の平らなところをあるいて居りました。
 たしかにこれは罰金です。おまけにもし汽車がきて、窓から長い棒などが出ていたら、一ぺんになぐり殺されてしまったでしょう。
 ところがその晩は、線路見まわりの工夫もこず、窓から棒の出た汽車にもあいませんでした。そのかわり、どうもじつに変てこなものを見たのです。
月夜のでんしんばしら

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